逃した魚は、大きかった・・・!?3年で変貌を遂げた元彼に、焦りを感じた商社OL

逃した魚は、大きかった・・・!?3年で変貌を遂げた元彼に、焦りを感じた商社OL

「大企業に入れば、一生安泰」

昔からそう教えられて育ってきた。

有名大学を卒業し、誰もが知っている大企業に入社。

安定した生活を送り、結婚し子供を育て、定年後は年金と退職金で優雅に暮らす。それが一番の幸せだ、と。

財閥系の総合商社に勤める美貴(26)も、そう信じてきたうちの一人。

大学の友人エミリに、自分の現状を「もったいない」と言われ、戸惑いを隠せない美貴。追い打ちをかけるように、元彼・タクヤの外資系IT企業への華麗なる転職を知る。

3年ぶりに再会するタクヤは、一体どんな変貌を遂げているのか…?




上司の「自分本位」さが露呈する大企業の人事異動


「藤川さんは、11月から法務部に異動となりました」

辞令発令日、部長の部内アナウンスがフロア全体に響き渡った。

藤川さんは42歳。正義感に溢れ、仕事もできると評判の人だった。上司にも真っ向から意見し、物言う姿勢は若手社員からの人望を集めていた。

しかし、部長にとっては目障りな存在だったのだろう。

大企業では常に上司に従い、理不尽なことにも耐え続ける「忠犬」のような人が昇進することが多い。悪く言えば、「Yesマン」だ。

今でも背番号制が続く商社において、本人希望でない人事異動の対象となるのは、大抵人員削減の対象となった人か上司に気に入られなかった人、のどちらかだ。藤川さんは後者である。

―美貴、藤川さんが異動だなんて…ショックだな。

同期の智樹が、社内チャットを送ってきた。

智樹は昨日も飲み過ぎたのか、目が腫れぼったい。席は少し離れているが、コーヒーと栄養ドリンクを飲んで眠気を我慢しているようだ。

二人が所属する自動車第二部はトレードビジネスが主で日々の出荷量も多いため、総合職は連日残業が重なり、疲弊している。接待がない日も残業後に社員同士で飲みに行っているので、結局毎日飲んでいるようなものだ。

智樹からのチャットが、立て続けに届く。

―藤川さんみたいに仕事ができる人でも、結局こうなるんだな。
―俺も異動させられないように気をつけないと。

京大ラグビー部出身の智樹は、「文武両道」を体現したような存在で、同期の中でも入社時から期待されていた。

あれから3年が経った今、明らかに智樹からは覇気がなくなっている。入社当初は仕事にも精力的に取り組み、夜は意気揚々と「お食事会」に繰り出していたのに。


みんなのイメージと違う?徐々に消耗されていく商社マンの苦悩


日々消耗していく、若手商社マン


入社当初、“商社マン”という肩書きに、智樹のみならず同期の男子たちは皆浮かれていた。

週に何回もお食事会に行き、「財布が空っぽ」だと笑いながら言っていたし、商社の名刺をあげると女の子が喜ぶ、なんて自慢げに語っていたものだ。

外資系の会社に比べれば収入面は劣るものの、日系企業の安定感とブランド力がある商社マンの人気は未だ根強く、食事会でのウケは抜群だ。

スマートな外見に、仕事で鍛えられた巧みな話術。それで、学歴もブランド力もあるというのだから、婚活市場ではこの上ない“優良物件”なのだろう。




仕事にプライベートに、と生き生きとしていた智樹に異変があったのは、入社3年目になった頃からだ。

智樹曰く、「仕事にも慣れ、お食事会にも飽き、急に現実的になった」らしい。

智樹の社内チャットにどう返そうか悩んでいると、藤川さん異動の元凶となった部長が、智樹を大声で呼び出した。

「この資料修正、事前にコーポレートに確認したのか?経営陣に説明する用の資料なんだから、ダブルチェックは怠るなよ。あと、需要予測のページを追加して。あ、勿論先に関係者の了解取ってからな。」

「関係者の了解」「事前に確認」は、部長の口癖である。

“自分の面子”を気にする上司のために何度も資料の修正を重ね、社内関係者何人もの事前了解の取得が必要。

これが商社マンの実情だ。

もちろん、取引先にも常に頭が上がらない。給料は高いが、平日は仕事に全てを捧げ、体力的にも精神的にも消耗していく。

智樹は最近、「この仕事って、何の意味があるんだろうな。」と愚痴を漏らすようになった。そんな智樹の様子も、美貴から見れば「もったいない」と思える。

―智樹は、大丈夫だよ。それより顔色悪いけど、昨日も飲み会だったの?

人事異動を気にする同期を励まし、美貴は仕事に戻った。



実は今夜、美貴は元彼のタクヤと食事の約束をしていた。

エミリからタクヤの話を聞き、久しぶりに連絡したら「食事でもどう?」と誘われたのである。

別れてから数年経っているが、その誘いは素直に嬉しかった。ベンチャー勤めの彼との将来が考えられず別れてしまったが、決して嫌いになったわけではない。別れてからも何度かタクヤのことを思い出すことがあった。

それに将来のことなんて何も考えてなさそうだったタクヤが、世界的に有名なIT企業に転職したと聞き、どんな変貌を遂げたのだろうという焦りと興味もあった。

優太への罪悪感はあったが、タクヤと今さら何かあるとは思えないし、ただ食事をするだけ、と自分に言い聞かせた。

美貴は仕事を終えると、足早に麻布十番に向かった。


久しぶりの元彼との再会。タクヤが美貴を食事に誘った真意とは?


「美貴、久しぶり!ごめんね、少し待たせちゃって」

麻布十番の『がいがい.』に現れたタクヤを見て、美貴は驚いた。

大学時代より、ぐんと恰好よくなっていたからだ。

カジュアルなジャケパンスタイルを嫌みなく着こなしており、パーマがかかった髪型も大人っぽい。

「この間久しぶりにエミリにばったり会って。その後、急に美貴からも連絡が来たからびっくりしたよ」

タクヤは大学時代も明るいムードメーカーだったが、それは今も変わらないようだ。今はそれにプラスして、オシャレでスマートな雰囲気がある。

タクヤが予約してくれたこのお店も、隠れ家的な雰囲気で美貴は一目で気に入った。




「焼き鳥が美味しいから、何種類か頼もうか。他に食べたいものある?」

美貴が「初めてだから、お任せする」というと、「じゃあ俺のおすすめ頼むね」と、てきぱきとメニューを決めてくれた。

そのリード力に、美貴は驚く。3年ぶりに再会したタクヤは、既に美貴の知っているタクヤではないようだ。

タクヤは転職後、六本木の外資系IT企業で、主に新規顧客へのサービス・ソリューション提案を担当しているらしい。

独創的なオフィスや世界をリードする会社での事業開発の面白さ、優秀な社員から受ける刺激など、タクヤは目を輝かせながら近況を語ってくれた。



「美貴、家まで送ってくよ」

食事が終わり、いつの間にかお会計を済ませたタクヤは、店を出るとすぐにタクシーを拾ってくれた。そのスマートで慣れた振舞いに、美貴はまた驚いてしまう。

車中、美貴は思わずタクヤに聞いた。

「タクヤって、今彼女とかいるの?」

今日のデートの立ち振舞いから、彼女くらいはいるのだろうと思った。しかし一方で、今日美貴を誘った真意を知りたいという気持ちも、心の奥底にあった。

「うん、いるよ。仕事で知り合った赤坂の広告代理店の子。お互い仕事が忙しくてあんまり会えてないけど、付き合って1年くらいになるかな」

「もしかしたら引きずっているのかも」という予想はあっさり打ち砕かれ、それどころかタクヤには自分と全く違うタイプの彼女がいた。

すると、タクヤは笑顔でこう続けた。

「大学時代、美貴にあっさり振られちゃったから、ずっと気になってたんだ。美貴、今はどうしてるかなって。でも今日会えて、良かったよ」

タクヤの言葉がグサリと胸に刺さる。「将来が不安」という理由で別れた美貴だったが、こうして生き生きした彼を見ていると、当時の自分の判断は浅はかだったのかもしれない、と彼氏がいる身にも関わらずふと思ってしまった。

「あ、この辺りで大丈夫です。タクヤ、今日はありがとね。ごちそうさまでした」

美貴はそんな気持ちを悟られぬよう、素早くタクシーを降りる。

優太とうまくいっていないからこそ、美貴は過去の決断を悔やみ、ありもしない「タラレバ」ばかり考えてしまう。

もう過去の人なのに、タクヤの存在が、美貴の心を大きく占めていた。


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恐ろしい未来予想図?自分の“お姉さま”姿を想像して、焦りに焦る美貴。