「わろてんか」38話。困ったときの高橋一生頼み、女は案外喜ばない

「わろてんか」38話。困ったときの高橋一生頼み、女は案外喜ばない連続テレビ小説「わろてんか」(NHK 総合 月〜土 朝8時〜、BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜)

第7週「風鳥亭、羽ばたく」第38回 11月14日(火)放送より。 

脚本:吉田智子 演出:本木一博



38話はこんな話



てん(葵わかな)と藤吉(松坂桃李)の夢の寄席【風鳥亭】がいよいよオープンした。



オープンは、春



いつの間にか、季節は春。

寄席を買うお金を、てんの父から借りたのが冬だったから、湯呑みや座布団の用意や、出演者を交渉して番組をつくったり宣伝したりと、準備にそれなりに時間をかけたようだ。



ちなみに、このドラマのモチーフとなっている吉本興業の創始者・吉本せいとその夫は、大正元年4月1日に、

【第二文芸館】という寄席を、天満天神裏門のそばに開業している。宝島社の「吉本せいの生涯」によると、

第二文芸館の権利金が500円で、1ヶ月の家賃が25円だったそうだ。史実では500円だけじゃ済んでなかった。大変。ドラマのてんたちはどうしているんだろう。



いきなり閑古鳥



鳥は鳥でも閑古鳥。

売れない芸人の寄せ集めだから、無理もない。

ベテラン落語家・和泉家玄白(鍋島浩)に新しい寄席は3日めから、と言われて頑張るが、客は日に日に減っていくばかり。

プライドを損なわれた玄白師匠は怒って出演を取りやめてしまった。



藤井隆がひとり、初日のトップバッターの緊張、全力で舞台に出るパッション(そんなネタありましたね)、うしろ面をそれなりにおもしろく見せる身体性の高さ、客がいないことを背中で感じる哀愁・・・とすべてに迫真。さすが、かつて朝ドラ「まんてん」(02年)でヒロインの相手役をつとめただけある貫禄で、これならふつう、売れるだろう、少なくともやがて売れっこになるキャラだ、という違和感はどうしたものか。せっかくの名演なのに。



そこへ高橋一生



かつて、すでに犯人がわかった時点で、放送時間33分をたったひとりの推理で保たせるという趣向の「33分探偵」というドラマがあった(いまをときめく福田雄一作品)が、こちらは、売れない芸人4人が交互に出てきてしかも同じ芸で、6時間保たせるという苦行が繰り広げられる。

「またおんなじ芸人」と何度も言いながら去っていく客に笑った。



ついに、客がいなくなったと思ったら、高橋一生(伊能栞役)が、すてきな音楽と笑顔で登場。

しょぼくれた藤吉(松坂桃李)とご対面。

「少し興味があってね」と意味深な発言などをしつつ、にこにこと芸を見ている伊能様。高座よりも客席が目立ってしまう皮肉。



客のいない客席で、ひとり輝いている高橋一生の図は、いまのテレビ界を物語っているようだ。

彼は、「わろてんか」といい「民衆の敵」(フジテレビ)といい、ドラマの内容の薄い部分を埋める役割を果たしてばかりいる。それこそ、ひとりで穴を保たせている。

せっかく、台本を豊かに解釈して、芝居もちゃんとできるのに、ただニコニコしていたり、裸になったり、ムードばかり振りまくことを求められている高橋一生は、いま、何を思っているのだろうか。いまのうちと割り切っているのだろうか。



例えば、「ハムレット」に、ほんの少しだけ出てくる墓掘りを演じる俳優は名優であるというように、お芝居には、ほんのすこしの出番が重要だったり、ほんのすこしの出番で観客の注目かっさらったりすることはよくある。もうすぐ「わろてんか」に登場する笹野高史はかつて、自身を「ワンシーン役者」と名乗っていた。

そうはいっても、高橋一生には、もうすこし長い時間じっくり芝居してほしい。



つくり手の方々は、女性視聴者は、そこまでイケメンならなんでもOKではなくて、物語とキャラクターが合わさったときにときめくのだということを肝に銘じていただきたい。



今日の、わろ点



吉蔵の女房・歌子(枝元萌)が、客席を詰める技を鮮やかに見せたところ。

太った人をすっと前に滑らせるタイミングは爽快だった。これはどういう仕掛けなんだろう。滑車でも仕掛けてあったのだろうか。それとも客役の俳優の体重のかけ方がうまいのだろうか。いずれにしても、かかわっている人たちが息を合わせて気持ち良い瞬間をつくりだしたことに木戸銭払いたい。

(木俣冬)